越境トラブルを防ぐための承諾書の書き方 ~地主が知っておくべき「小さな合意」の大きな効果~
地主として土地を持ち続けていると、避けては通れないのが隣地との関係です。
特に古くからの住宅地や狭小地では、「ちょっとした越境」がしばしば見られます。
エアコンの室外機、ブロック塀、カーポートの屋根、さらには植栽の枝…。
たとえ「たった数センチ」でも、それが法的な境界を越えている限り、「不法占拠」に該当する可能性があるのです。
本記事では、そうした越境トラブルを防止するための「承諾書」について、地主の視点から書き方・考え方を詳しく解説します。
第1部:越境トラブルが地主にとって深刻な理由
1. 越境の放置がもたらす長期的リスク
地主が越境を黙認し続けると、次のようなリスクが生まれます。
・長期間にわたり占有が続くと、**時効取得(民法第162条)**の主張をされる可能性
・将来的に売却や建築の際、障害物の撤去で揉める
・相続人が気づかず放置し、代を超えて争いに発展
地主にとっては、「今は仲が良いからいいや」という気持ちが、将来的なトラブルの火種になりかねません。
2. 測量や建築申請時に問題化するケースも
たとえば、地主が以下のような行動を取ろうとした際、越境が問題になります。
・敷地境界に沿って新たに塀や建物を建てようとした
・測量を入れて登記簿と実測の整合を取ろうとした
・土地の一部を売却しようとした
そのときに「隣のカーポートが10cm越境している」ことが発覚すれば、それだけで工事が止まる/売却が進まない/買主が不安視するといった状況になってしまいます。
3. 地主の「責任」として問われることも
万が一トラブルに発展した場合、「なぜこれまで放置していたのか」「承諾の証拠はあるか」と問われるのは地主側です。
境界を巡るトラブルは感情的になりやすく、当事者の記憶や主張が食い違うケースがほとんど。
だからこそ、地主としては“書面での合意”を残しておくことが自衛策になるのです。
第2部:承諾書で越境トラブルを予防する具体的方法
1. 「越境承諾書」とは何か?
越境承諾書とは、地主が自分の土地の一部に他人の構造物などが越境していることを認識し、それを一定の条件のもとで容認する旨を記した書面です。
一般的には以下のような要素を含みます。
・越境物の具体的内容(例:屋根のひさし、配管、塀)
・越境の範囲・面積・場所
・地主が使用を容認する旨
・撤去・修繕時の条件(例:「建て替え時には越境をやめること」など)
・使用料の有無
・第三者への譲渡・相続時の効力の有無
・日付、署名、印鑑
地主として重要なのは、将来的なトラブルにならないよう、“いつまで”“どんな条件で”容認するかを明記しておくことです。
2. 承諾書を交わすタイミングと相手の反応
以下のようなタイミングでの交渉が現実的です。
・相手方がリフォームや増築を行う前(確認申請の前段階)
・境界測量やブロック塀の改修工事前に話し合いを行う
・相続・売却などのライフイベント時
地主の立場としては、「仲が悪くなるのでは」と心配になることもありますが、むしろ文書にしておいた方が双方にとって安心であると説明することで、納得を得やすくなります。
3. 雛形と文例(地主向け実用フォーマット)
以下にシンプルな文例を示します。
【越境使用承諾書】
私は、東京都〇〇区〇〇丁目〇番地所在の土地について、隣地所有者〇〇〇〇(以下「使用者」)が、〇〇(越境物:例「屋根のひさし」)の一部を本土地に越境させていることを承知し、これを下記の条件に基づき承諾します。
1.使用者は、本越境部分を使用するにあたり、地主の権利を妨げないよう努めるものとする。
2.本越境物が老朽化、建て替え等により撤去される場合は、再設置は認めないものとする。
3.本使用承諾は譲渡・相続された場合にも継続される。
4.使用期間は特に定めないが、地主が合理的理由により使用停止を求めた場合は応じるものとする。
5.本書は、地主・使用者双方が各1通保有するものとする。
令和〇年〇月〇日
【地主】住所・氏名・印
【使用者】住所・氏名・印
このように、地主が文書で合意を残すことで、越境が「黙認」から「管理された許可」に変わるのです。
第3部:地主としての越境対応と長期的戦略
1. 不可抗力的な越境も「容認ではなく管理」へ
・地盤のずれや経年劣化で生じた越境も想定される
・過去の建築で発生した誤差(数cm)でも、書面を用意しておけば安心
・地主の立場では「気づいた時点で放置しない」姿勢が重要
2. 売却や相続の際には「承諾書がある土地」は強い
不動産を売却する際、買主や金融機関は越境の有無を非常に気にします。
越境がある土地でも、以下の書類があれば取引を妨げません。
・越境使用承諾書
・覚書
・越境範囲を明示した測量図や図面
地主にとって、承諾書は「問題がある土地」から「きちんと管理された土地」へと評価を変える鍵になります。
3. 境界トラブルを回避するための地主の習慣
地主としての土地管理において、以下のことを意識しましょう。
・境界は定期的に確認し、越境物を把握する
・気づいた時点で相手方と丁寧に話し合う
・書面に残すことをためらわない(公正証書でなくても有効)
こうした姿勢が、地主としての信頼にもつながり、次世代へのスムーズな資産継承にも貢献します。
越境は、見た目は小さくても、地主にとっては大きなリスクです。
そして、話し合いができる今だからこそ、「紙一枚」の承諾書を残す価値があります。
・書面での合意は将来のトラブルを未然に防ぐ
・売却・建築・相続の場面で地主に有利に働く
・書き方の基本を押さえれば、専門家がいなくても対応可能
地主の皆さまは、「いま越境しているから困る」ではなく、「将来困らないように今書面にする」という視点で、このテーマに取り組んでみてください。