贈与税をゼロにする「暦年贈与」の実践例 ~地主こそ活用すべき、生前対策の王道~
地主として不動産を所有している方にとって、相続税は切実な問題です。
特に、都市部の土地を複数所有している地主の場合、「相続税評価額」が高くなることで、想定以上の相続税が発生することも珍しくありません。
そこで近年、地主の間で注目されているのが「暦年贈与」という方法です。
これは、年間110万円までの贈与については贈与税が非課税になるという制度を活用し、長期的に資産を移転する方法です。
今回は、暦年贈与の基本から、地主が実際に活用している事例、そして実行時の注意点までを3部構成でわかりやすくご紹介します。
第1部:「暦年贈与」とは?地主にとっての基本知識
年間110万円まで非課税、それが「暦年贈与」
暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間に、贈与を受けた金額が110万円以下であれば、贈与税がかからないという仕組みです。
この制度は、受け取る側(受贈者)ごとに適用されるため、地主が子どもや孫、配偶者など複数の人に対して贈与すれば、その分だけ非課税枠を最大化することができます。
◆地主にとってのメリット
✅ 現金や預貯金を少しずつ移せる
✅ 毎年の贈与で、相続財産を圧縮できる
✅ 不動産の相続税支払いに備えて、現金を移しておける
✅ 家族に早く財産を渡せることで、納得感ある相続が実現できる
地主にとっては、「財産を動かす手段」であると同時に、「将来の相続トラブルを防ぐ予防策」にもなるのが暦年贈与の魅力です。
第2部:地主による暦年贈与のリアルな実践例
◆事例①:地主Aさん、10年間で非課税で2200万円を移転
東京近郊に賃貸物件を持つ地主Aさん(70代)は、長男・長女・孫の3人に対して、毎年110万円ずつ贈与を実施。
10年間で合計2200万円(110万円×3人×10年)を非課税で移転することに成功しました。
その結果、相続時の課税財産が2200万円減り、相続税も約700万円軽減できたといいます。
◆事例②:地主Bさん、暦年贈与で「現金化」も並行
地主Bさんは、収益物件からの家賃収入を原資に、暦年贈与を毎年実施。
あわせて、自身の所有する土地の一部を売却し、その売却益も贈与に活用しました。
Bさんのポイントは「土地を相続させるなら、現金は今のうちに贈与しておく」という発想。
この戦略により、将来的に不動産を相続する側の納税負担を減らすことができました。
◆事例③:贈与契約書を毎年交わし、証拠も完備
地主Cさんは毎年、贈与契約書を作成し、贈与者と受贈者の署名・押印を実施。
贈与金額も、現金手渡しではなく銀行振込で記録を残すよう徹底していました。
このように形式を整えることで、税務署から「実態のない贈与」と判断されるリスクを避けられます。
地主だからこそ、税務署から目を付けられやすいため、きちんと証拠を残すことが重要なのです。
第3部:地主が暦年贈与で気をつけるべき3つのポイント
① 「名義預金」にならないように注意
贈与をしても、贈与先がそのお金を自由に使えなかった場合、それは「名義預金」として認定される可能性があります。
たとえば、孫名義の口座にお金を移しても、通帳も印鑑も祖父母が管理しているようなケースです。
地主が贈与をする際は、「贈与を受けた側が自由に使える状態か」を意識しましょう。
② 贈与契約書と振込記録は毎年セットで残す
税務署は「本当に贈与があったのか」を厳しくチェックします。
特に地主のように高額資産を持っている方は、調査対象になりやすいため、契約書や振込記録などの証拠が重要です。
手書きでもいいので、毎年必ず贈与契約書を作りましょう。
③ 「相続開始前3年以内」の贈与は要注意(2024年税制改正対応)
2024年以降の税制改正により、「相続開始前3年以内の暦年贈与」については、相続財産に加算されるルールが強化されました(それまでは3年、それ以降は最大7年まで段階的に延長)。
地主が効果的に暦年贈与を活用するには、できるだけ早いうちから贈与を始めるのがポイントです。
贈与税の非課税枠(110万円)は、一見すると小さく感じられるかもしれません。
しかし、地主のように不動産や現金を持つ人が家族全体で毎年活用すれば、10年・20年後には大きな相続税の節税効果につながります。
・家族への贈与は「愛情」だけでなく、「戦略」でもある
・贈与税ゼロでも、証拠を残してきちんと準備
・地主の相続は、今始めることで“争続”を防げる
相続の準備は、亡くなった後ではもう遅いのです。
地主という立場にあるからこそ、毎年110万円という制度を最大限活かすことが、次世代への安心した資産承継の第一歩になります。