相続税ゼロでも揉める?非課税枠の落とし穴 ~地主こそ知っておくべき相続の真実~
「うちは基礎控除の範囲内だから相続税はゼロで済みそう」と安心している地主の方はいませんか?
確かに、相続税には「非課税枠(基礎控除)」があり、それを下回れば税金は発生しません。
しかし、実際には相続税がかからないケースでも、遺産分割をめぐって激しく揉めるケースが後を絶ちません。
特に地主のように不動産が多く現金が少ない家庭では、分け方や使い方をめぐって親族間の対立が起こりやすいのです。
今回は、そんな「相続税ゼロでも揉める」典型的なパターンと、地主が気をつけるべきポイントを3部構成で解説します。
第1部:非課税だから安心?実はトラブルの温床
相続税の基礎控除は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。
たとえば相続人が配偶者と子ども2人の計3人であれば、非課税枠は4,800万円です。
これを聞いて「うちは不動産しかないし、評価額もそこまで高くないから大丈夫」と考える地主は多いのですが、実はここに大きな落とし穴があります。
◆現金ではなく“土地”ばかりが相続対象
地主の相続で最も多いのが「土地と建物しかない」状態です。
たとえば評価額4,000万円の土地がある場合、それが1つの筆(まとまった1つの土地)であれば、「どうやって分けるか」が問題になります。
兄弟で3人いても、土地は3等分できません。
しかも「ここに家を建てたい」「売りたくない」「誰が管理するの?」といった意見の相違が噴出し、結果的に家庭裁判所の調停に進むケースも少なくありません。
◆「税金はゼロ」でも「感情の対立」はゼロではない
相続税が発生しないケースでは、専門家(税理士や弁護士)を入れずに手続きする人も多く、かえって問題がこじれることがあります。
「自分が親の面倒を見ていたのに、なぜ遺産は均等なのか」
「兄が勝手に土地を使っている。私は一切知らされていない」
こうした不満は蓄積し、やがて家族の関係すら壊してしまうのです。
第2部:地主が巻き込まれたリアルなトラブル事例
◆事例①:相続税ゼロでも遺産分割協議が2年も決裂
ある地主Aさんの家では、母親が亡くなり、評価額4500万円の自宅敷地と古いアパートが相続対象となりました。
非課税枠内だったため相続税はかかりませんでしたが、兄妹3人の間で意見が割れ、誰がどの土地をもらうかで激しい争いに。
最終的には長男が弁護士を立て、遺産分割協議は家庭裁判所に持ち込まれました。
不動産は動かせず、賃貸収入も凍結。2年間にわたって一切の収益が止まり、地主一家は経済的にも精神的にも疲弊しました。
◆事例②:親の口約束が原因で兄弟絶縁に
別の地主Bさんのケースでは、生前に親から「この土地は長男に任せる」と聞かされていたにもかかわらず、遺言書はなく、相続時には次男・長女も「当然、自分も等分もらえるはず」と主張。
弁護士を入れて協議したものの感情の対立は収まらず、兄弟3人は絶縁状態になってしまいました。
地主の相続では、不動産の価値や収益性が絡むため、ちょっとした不公平感が大きな火種になります。
「税金がかからない=平和な相続」ではないことが、このような事例からもよくわかります。
第3部:非課税枠でも地主がすべき“3つの対策”
① 遺言書は必須。可能であれば公正証書で
どんなに仲の良い家族でも、遺言がないと相続人全員の合意が必要になります。
地主のように不動産が絡む相続では、遺言書を残すことが最大の防御策です。
特に公正証書遺言は法的効力が高く、無効になりにくいためおすすめです。
② 財産の見える化と「納得」の事前説明
相続財産の内容や評価額をまとめた「財産目録」を作っておくことで、家族の納得感を得やすくなります。
また、地主自身が元気なうちに「この土地は誰に」「この賃貸はどうする」といったビジョンを共有しておくことで、感情的な衝突を未然に防ぐことができます。
③ 生前贈与や共有解消も視野に入れる
不動産は、共有名義にすると将来トラブルの元になりがちです。
できる限り生前のうちに名義を整理したり、一部を贈与してあらかじめ分けておくことで、スムーズな承継が可能になります。
「うちは非課税だから安心」
そう思って何の準備もせずにいると、相続開始と同時に“家族が分裂”する可能性があります。
特に地主の相続は、「不動産をどう分けるか」「どう運用するか」「誰が管理するか」といった課題が複雑に絡みます。
そのためこそ、税金の有無にかかわらず、相続を“人間関係の問題”として準備することが求められるのです。
地主として、土地を守り、家族を守る。
そのための第一歩は、「相続税ゼロ=安心」という思い込みを捨て、早めに行動を起こすことです。