地主が法人化する際の節税シミュレーション ~個人と法人、どちらが本当に得か?~
土地を複数所有し、賃貸経営を行う地主にとって、税金は避けられない問題です。
所得税・住民税・相続税……年々膨らむ納税額に頭を抱えている地主も多いのではないでしょうか。
そんな中で注目されているのが「法人化による節税対策」です。
法人を設立し、土地や建物の管理を法人に任せることで、税率が抑えられたり、相続時の対策がしやすくなったりといったメリットがあります。
しかし、法人化にも初期コストや運営負担があり、すべての地主にとって最適とは限りません。
今回は「地主が法人化する際の節税効果」について、具体的なシミュレーションを交えながら、わかりやすく解説していきます。
第1部:なぜ地主は法人化を考えるのか?
地主が法人化を検討する最大の理由は「所得税の軽減」です。
たとえば地主が賃貸物件から年間2000万円の収入を得ていた場合、個人名義であれば所得税率は最高45%(住民税を含めると約55%)にもなります。
一方、法人化して収入を法人に移せば、法人税率は中小企業で約23%。さらに家族を役員にして給与を分散することで、合法的に税負担を抑えることが可能です。
また、法人化のメリットとして、以下のような点が挙げられます。
・経費として落とせる範囲が広くなる(自宅の一部、車両費など)
・家族への給与支払いが節税につながる
・将来的に相続税の対策が立てやすくなる
・法人の赤字を翌期に繰り越せる
これらは、地主が代々資産を維持・運用していく上で、非常に強力な武器となり得ます。
第2部:節税効果を具体的にシミュレーションしてみよう
では、実際にどれほどの節税効果があるのか、シンプルなシミュレーションをしてみましょう。
【前提】
地主の賃貸収入:年間2,000万円
経費(修繕・管理費等):400万円
所得控除後の課税所得:1,600万円
■個人で経営した場合
課税所得1,600万円に対する税率は最大45%。住民税等を含めると、
→ 年間の税金:約800万円(実効税率 約50%)
■法人に移した場合
法人での実効税率は約23%。さらに家族3人(妻・子)にそれぞれ年間300万円ずつ給与を支払い、役員報酬で分散。
法人利益:
2,000万円 - 900万円(役員報酬) - 400万円(経費) = 700万円
法人税:約161万円(実効税率23%)
家族3人の役員報酬:
それぞれ課税所得300万円 → 所得税・住民税合計で約35万円程度ずつ
家族合計税負担:約105万円
→ 合計税負担:約266万円(個人より約534万円の節税)
このように、地主がうまく法人を活用すれば、年間数百万円の節税効果を得られる可能性があるのです。
第3部:法人化の注意点と、地主が気をつけるべき落とし穴
法人化には多くのメリットがありますが、当然ながらリスクや注意点も存在します。
① 初期費用と維持コストがかかる
法人設立には登記費用や定款認証費用などがかかりますし、毎年の法人税申告や顧問税理士費用も必要です。
地主が単独でアパート1棟程度を持っているだけであれば、法人化による節税効果よりコストの方が高くつくこともあります。
② 不動産の名義変更に伴う登記費用・税金
所有する不動産を法人に移す場合、不動産取得税や登録免許税がかかることがあります。
また、賃貸収入を法人に移す際には、地主と法人との間で「管理委託契約」や「借上契約」をきちんと結ばなければなりません。
③ 金融機関との関係が変わる
地主として個人で信用を積み上げていた場合、法人化すると借入先が法人に切り替わるため、金融機関の審査基準が変わることがあります。
設立間もない法人では、融資が通りにくくなることも。
法人化は確かに地主にとって大きな節税手段になり得ますが、それはあくまでも「状況に応じて有効な選択肢」だということを忘れてはいけません。
・所得が多くて税率が高い地主
・家族への給与分散が可能な地主
・長期的に不動産経営を法人に引き継ぎたい地主
このような地主にとっては、法人化は非常に有効です。
一方で、収入規模が小さかったり、不動産が少数だったりする地主にとっては、法人化のメリットが少ない場合もあります。
最終的には、**「自分にとって何が目的か」**を見極めた上で、信頼できる税理士や不動産コンサルタントと一緒に判断するのが最善です。
地主として資産を守り、次世代へしっかりバトンタッチするために、法人化という選択肢を一度検討してみてはいかがでしょうか?