アパートを建てて節税は今も有効か? ~地主が見直すべき2025年以降の土地活用戦略~
かつて「地主の王道節税法」として知られたのが、アパート建設による節税対策。
特に都市部に土地を所有する地主にとって、「更地よりも建物を建てたほうが相続税が安くなる」という話は定番中の定番でした。
実際、次のような言葉を耳にしたことのある地主も多いでしょう。
「更地にしておくのはもったいない」
「アパートを建てれば評価が下がるから相続税が節税できる」
「土地活用の一環として空室リスクはあるけど節税効果は抜群」
しかし2025年現在、アパート建設による節税が“必ずしも得ではない”という声が広がりつつあります。
相続税評価の見直し、建築コストの上昇、空室率の増加…地主にとって、状況は確実に変わってきているのです。
この記事では、「アパート建設による節税は今でも有効なのか?」を、地主の立場から再検証し、判断材料を3部構成で整理していきます。
第1部:そもそもなぜ「アパート建設=節税」なのか?
◆土地の評価が下がる“貸家建付地”のルール
地主がアパートを建てることで節税になる最大の理由は、「土地の評価が下がる」ことにあります。
具体的には、賃貸物件を建てるとその土地は「貸家建付地」として評価され、
以下のように評価額が減額されます。
評価額 = 自用地評価額 ×(1-借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
たとえば、借地権割合70%、借家権割合30%、賃貸割合100%のケースでは…
評価額 = 自用地評価額 ×(1-0.7×0.3×1)= 自用地評価額の約79%
つまり、約21%も評価が減額されるのです。
この「圧縮効果」が、地主にとっての大きな節税メリットでした。
◆建物評価も下がるからダブルで効果
さらに、アパートなどの賃貸用建物は「固定資産評価額(建築費の6~7割程度)」で評価され、
かつ相続時には貸家評価(30%程度減額)が適用されます。
これにより、地主の相続財産全体の評価額を大幅に引き下げることができ、
「数千万円単位の節税につながった」という事例も少なくありませんでした。
◆銀行融資による“債務控除”の恩恵も
地主がアパートを建てる際に銀行融資を使えば、相続時には借入金も債務控除としてマイナス評価に加算されます。
つまり、
・賃貸物件 → 評価が下がる
・借入金 → 債務として控除できる
という「ダブルパンチ」で、相続税を圧縮することができるというのが、かつての“常識”だったのです。
第2部:2025年以降、節税効果に陰り?地主が知るべき現実
◆相続税の評価見直しが迫る「賃貸不動産の評価圧縮」への制限
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024年秋から一部報道でも話題になっているのが、
国税庁による不動産評価のルール見直しです。
現在の評価方法では、「実際の資産価値よりも低い評価で相続税が課税されている」との批判があり、
特に“収益性の低いアパート”でも評価が下がる点が問題視されています。
これに対して、国税庁は…
・実勢価格に近いかたちで評価するルールに見直す
・節税を目的とした不自然な賃貸建物への監視を強化
…といった流れに向かっており、「節税のつもりが逆に課税強化される」リスクも出てきています。
◆空室率の増加と賃料下落が“節税効果”を食いつぶす
節税を目的にアパートを建てても、空室が続けば節税どころか“赤字経営”になるというリスクも現実です。
特に地主が多い郊外エリアでは、
・新築なのに賃料が安い
・供給過多で競争激化
・修繕費・管理費が想定以上
といった課題を抱えているケースが多く、
「節税のために建てたが、10年後には売ってもローンが残る」という事例も増えています。
地主にとって重要なのは、単に税金が減るかではなく、
「長期的に収益を生み続けられるかどうか」という視点です。
◆建築コストの高騰が“投資効率”を悪化させている
2023~2025年にかけて、建築コストは大きく上昇しました。
・鉄筋・木材の価格高騰
・人件費・設計費の増加
・工期の長期化
その結果、「同じ土地に同じ規模のアパートを建てても、昔より利益が出にくい」状況になっています。
地主が「節税したいから建てる」という発想だけで進めると、
期待していた節税効果に見合わない投資となる可能性も高いのです。
第3部:地主が今取るべき戦略は?「節税ありき」からの脱却を
◆必ずシミュレーションを行うこと
アパート建設を検討する地主にまず必要なのは、「税金がいくら下がるか」ではなく、「投資として成立するか」という視点です。
・建築費はいくらか?
・借入は必要か?
・空室率の見通しは?
・家賃収入から経費を引いた手残りはいくらか?
・節税効果は何年で相殺されるのか?
これらを税理士・不動産会社・建築会社などと綿密に計算し、納得できる根拠を持ってから建築することが、地主の資産防衛の基本です。
◆他の節税手段と比較する
地主にはアパート建設以外にも、節税の選択肢があります。
・家族信託+暦年贈与の活用
・法人化による所得分散と相続対策
・土地の一部売却と納税資金の確保
・小規模宅地等の特例を最大限使う相続設計
こうした選択肢と比較しながら、“最も効果があり、実行しやすい方法”を選ぶことが重要です。
「とりあえずアパートを建てておけば大丈夫」という時代は、すでに終わりつつあるのです。
◆専門家チームを組んで取り組む
地主がアパート建設を検討する際には、以下のような専門家の連携が不可欠です。
・不動産会社(市場調査と賃料査定)
・建築会社(設計・見積もり)
・税理士(相続・所得税シミュレーション)
・弁護士(契約リスク)
・ファイナンシャルプランナー(資金繰り全体像)
節税だけに着目するのではなく、「土地活用」「税対策」「収支計画」の三位一体で考えるのが地主のあるべき姿です。
「アパートを建てて節税」は、今でも一定の効果はあります。
しかし、それは地主の立地・資産規模・相続構造・家族関係・資金計画などがすべて整っている場合に限るのです。
むしろ2025年現在では、
・相続税評価の見直しリスク
・空室・建築費高騰による収益悪化
・法人化・家族信託など他の有効手段の台頭
などを踏まえ、「アパート建設は節税の特効薬ではなく、リスクも伴う投資である」と再認識する必要があります。
地主にとって大切なのは、“節税が目的化してしまうこと”ではなく、
「資産を守る」「収益を生む」「家族に迷惑をかけない」という本来の目的に立ち返ることです。
節税は“手段”であり、“目的”ではない。
その視点さえ見失わなければ、アパート建設は今でも立派な選択肢のひとつとなるでしょう。