農地を相続する場合の注意点
農地を相続することになった地主にとって、その手続きや管理は都市部の宅地とは異なる独自の課題があります。農地には農地法や都市計画法などの規制があり、自由に売買や転用ができないため、地主であっても「相続した農地をどう活用すべきか?」という点で悩むことが多いのです。
さらに、農地は宅地に比べて収益性が低いケースもあり、固定資産税や管理コストばかりがかかってしまうこともあります。そこで今回は、地主が農地を相続する際に押さえておくべき注意点を、法律・税務・活用方法の3つの視点から解説します。
第1部:法律面での注意点
農地を相続する地主がまず理解すべきは、「農地は農地法によって厳しく取引や利用が制限されている」という点です。
農地を売却したり、宅地や駐車場などに転用したりする場合には、農業委員会や知事の許可が必要になります。例えば、農地を第三者に売却する場合は農地法第3条の許可が、農地を宅地などに転用する場合は農地法第5条の許可が必要です。
地主にとって見落としがちなのは、相続そのものには許可が不要でも、その後の活用や売却では必ず法的手続きを踏む必要があるということです。また、農地を所有することで相続税評価額が低くなる場合もありますが、それは農地として適正に利用していることが前提です。放置して荒廃農地となってしまえば、行政指導や課税強化の対象となることもあります。
地主としては、農地の現況や立地条件を正確に把握し、今後の活用計画に沿った許可申請を早めに進めることが重要です。
第2部:税務面での注意点
農地を相続した地主にとって、税務面での最大のポイントは「相続税評価額の特例」と「納税猶予制度」です。
特に農業を継続する意思がある場合、「農地等に係る相続税の納税猶予制度」を活用すれば、相続税の納税が猶予され、一定の条件を満たせば最終的に免除されることもあります。ただし、この制度は農業を継続する意思と実態が求められるため、地主が農業を行わない場合は適用できません。
また、農地は宅地に比べて固定資産税が安いケースが多いですが、地目を変更して宅地化すると税負担が一気に上がります。地主は「将来の活用計画」と「税負担」のバランスを見極める必要があります。
さらに、農地を売却して現金化する場合、譲渡所得税や農地法上の制限が絡むため、税理士や不動産の専門家と連携して計画的に進めることが求められます。
第3部:活用・管理面での注意点
農地を相続した地主が悩むのは、「農業を続けるのか、それとも転用や売却をするのか」という選択です。
もし農業を継続しない場合でも、すぐに売却できるとは限りません。農地は需要が限定的であり、買い手は農業従事者に限られるケースが多いからです。この場合、地主が選べる選択肢としては、農地を貸して賃料収入を得る「農地リース」や、ソーラーシェアリングなどの再生可能エネルギー事業との併用があります。
また、農地を宅地化して貸地や駐車場に転用する場合は、都市計画や地形条件、インフラ整備の可否など多くの条件をクリアする必要があります。
地主としては、「短期的な収益」よりも「長期的な資産価値の維持・向上」を意識した活用を選択することが重要です。
農地を相続する地主にとって、法律・税務・活用の3つの側面を理解することは不可欠です。
相続自体は許可が不要でも、その後の売却や転用では農地法による規制がかかります。税務面では納税猶予制度や固定資産税の変動を見極める必要があり、活用面では農地のまま貸すのか、転用するのかといった戦略的判断が求められます。
地主としては、相続後すぐに農地の現況調査を行い、専門家と連携して最適な活用プランを策定することが、農地の価値を守りながら収益を確保するための第一歩です。