地主の節税策としてのアパート建築はまだ通用するのか?
地主にとって、土地は財産であり誇りですが、同時に税負担の大きな対象でもあります。
特に相続税や固定資産税は、土地を持つ地主にとって避けられない出費であり、場合によっては土地の売却を余儀なくされるケースも少なくありません。
そこで長年「節税策」として活用されてきたのがアパート建築です。
アパートを建てれば、土地の評価額が住宅用地として減額され、相続税の圧縮効果が期待できる──この考え方は長らく地主の間で常識とされてきました。
しかし、2025年現在、この戦略は果たしてまだ有効なのでしょうか?
建築費の高騰、人口減少、空室リスク、税制改正など、地主を取り巻く環境は大きく変化しています。
本記事では、地主がアパート建築による節税効果をどう判断すべきか、その実態と注意点を深掘りします。
第1部:アパート建築による節税の仕組み
地主がアパートを建てることで節税できるのは、主に相続税評価の圧縮効果によります。
1. 土地評価の減額
・更地を持っている場合、路線価や固定資産税評価額に基づき、ほぼ満額で評価されます。
・アパートを建てると、土地は「貸家建付地」として評価され、借地権割合や借家権割合を考慮して減額されます。
2. 建物評価の圧縮
・建物の評価は、建築費用ではなく固定資産税評価額で算定されます。
・新築アパートは木造であれば耐用年数22年程度、評価も減価償却により年々減少します。
3. 家賃収入による資金繰り
・節税効果に加え、家賃収入が相続税やローン返済の原資になります。
・地主が現金を保有しているよりも、課税対象額を減らしつつ運用できるというメリットがあります。
例:地主Aさんの場合
相続税評価額1億円の土地を更地で保有 → アパート建築により評価額7,000万円に減額。
建物は固定資産税評価額3,000万円で、結果的に相続税対象資産は合計1.5億円から1億円弱に。
さらにローンを活用することで課税額をさらに抑制できました。
第2部:2025年の現実──節税効果の陰りと新たなリスク
アパート建築が地主の節税策として語られてきた背景には、かつての高入居率と低金利があります。
しかし、現状では次のような変化が起きています。
1. 空室リスクの高まり
・少子高齢化と人口減少で、賃貸需要が減少。
・特に地方や郊外の地主は、アパートの入居率維持に苦戦。
2. 建築費の上昇
・2020年代に入り、木材価格や人件費が高騰。
・同じ規模のアパートでも、数年前より建築コストが1〜2割上昇しているケースも。
3. 金利上昇の可能性
・長期固定ローンの金利はまだ低水準だが、将来的な上昇リスクは無視できない。
4. 節税効果の縮小
・相続税評価の計算方法や借家権割合の見直しが行われ、以前ほどの圧縮効果が得られない場合がある。
例:地主Bさんの場合
駅徒歩15分の土地にアパートを建てたが、周辺に新築物件が増え、入居率が70%まで低下。
家賃収入がローン返済に追いつかず、節税どころか赤字に転落。
第3部:地主がアパート建築を検討する際の判断基準
2025年の今、地主がアパート建築を節税目的で行うなら、次のポイントを押さえる必要があります。
1. 収支シミュレーションの徹底
・税理士や不動産コンサルタントと連携し、節税効果+運営収支の両方を試算。
・空室率を低めに見積もることでリスクを可視化。
2. 立地とターゲットの明確化
・駅近・生活利便施設充実エリアは有利。
・学生向け、単身者向け、高齢者向けなどターゲットを明確にする。
3. 建築費とローン条件の最適化
・過剰設備を避け、必要な仕様に絞る。
・長期固定金利で資金計画を安定化。
4. 他の節税策との比較
・生前贈与、小規模宅地等の特例、法人化などと比較して、本当にアパートが有効かを確認。
アパート建築は、地主にとって今も有効な節税手段になり得ますが、それは条件が揃った場合に限るというのが2025年の現実です。
・立地が良く、安定した入居需要が見込める
・適正な建築費とローン条件が確保できる
・節税効果と収支バランスを同時に満たす
これらを満たさない場合、節税どころか赤字を抱える危険性があります。
地主は「税金を減らす」ことだけでなく、「長期的な収益と資産価値を守る」視点で判断すべきです。