地主が知らないと損する「借地非訟手続」とは 〜トラブルを回避するための法律知識〜
「借地人が建て替えたいと言ってきたが、条件で揉めている」
「地代の値上げを交渉しても、まったく応じてくれない」
「契約更新を断りたいが、どうすればいいか分からない」
こんな悩みを抱えている地主の皆さん、意外に多いのではないでしょうか?
借地契約は、借地借家法によって借地人に強い権利が認められています。地主の側としては、自分の土地であるにもかかわらず、「言いたいことも言えない」「対応を間違えると裁判になるかも…」と、いつも慎重にならざるを得ません。
しかし実は、地主側にとって**“交渉がこじれたときの救済手段”として利用できる法律手続き**が存在します。
それが、「借地非訟手続(しゃくちひしょうてつづき)」です。
この手続きは、地主が一方的に追い出したり契約を打ち切ったりするものではなく、家庭裁判所を通じて“客観的に解決策を見出す”ための柔らかい司法手続きです。
今回はこの「借地非訟手続」について、地主の視点で仕組み・活用場面・注意点を3部構成でわかりやすく解説します。
第1部:そもそも借地非訟手続とは何か?
■ 非訟手続とは?訴訟との違い
「非訟(ひしょう)」とは、“争いを解決するための裁判手続き”の一種ですが、通常の「訴訟(そしょう)」とは違い、
・勝ち負けを争うものではなく、
・裁判官が公平に判断・許可・認定を行い、
・実務的な問題を解決することを目的としたもの
です。
借地に関する非訟手続では、地主または借地人が、特定の判断を家庭裁判所に求めることで、交渉や話し合いでは解決できなかった問題に対し、法的な“お墨付き”を得ることができます。
■ 借地非訟手続が使える主なケース
地主が借地非訟手続を利用できる場面は、主に以下のようなケースです。
・借地契約の更新に関する合意が得られない場合
・地代・更新料など金銭の条件で折り合わない場合
・建て替え・増改築の承諾を拒否・放置された場合
・契約終了後の明渡しについて争いがある場合
・譲渡・転貸の承諾に関する判断を仰ぎたい場合
このようなとき、地主が一方的に拒絶したり黙殺したりしても、逆に裁判で不利になることがあります。
そこで地主としては、「自分の判断が正当かどうか、裁判所に事前に見てもらう」ことができるこの制度が非常に役立つのです。
■ なぜ「家庭裁判所」が管轄なのか?
借地非訟手続は地方裁判所ではなく、家庭裁判所に申し立てます。
これは、借地契約が長期にわたる個人間の信頼関係に基づいたものであり、調停的・和解的な性質が強いため、家庭裁判所が適任とされているからです。
地主と借地人の「共存関係」をできるだけ壊さず、冷静に法律判断を仰げる制度、それが借地非訟手続なのです。
第2部:地主が借地非訟手続を活用できる具体的な場面
■ ケース①:建て替えの承諾で揉めたら
借地人が建て替えを希望してきたとき、地主としては、
・敷地に影響が出るのでは?
・地代が増額できないなら損では?
・承諾料は支払ってもらえるのか?
と、慎重にならざるを得ません。
もし借地人と話し合いがまとまらず、地主が「NO」と言ったまま放置していると、借地人から「裁判所に申し立てされる」ことがあります。
一方、地主からも「その建て替えは合理的ではない」「合意が取れない」と感じた場合、地主自身が借地非訟手続を申し立てることが可能です。
これにより裁判所が建て替えの必要性・相当性・地主への影響などを総合的に判断し、「承諾すべきか否か」を公正に裁定してくれます。
■ ケース②:契約更新に応じたくない場合
地主としては、将来的に土地を活用したい、相続税対策として売却を考えているなどの理由で、「更新はしたくない」と思うこともあるでしょう。
しかし借地借家法では、正当な事由がなければ地主から更新拒絶はできないことになっています。
このようなとき、地主は借地非訟手続を通じて、
・「正当な事由」があることの確認
・借地人の同意が得られなかった場合の解除許可
を裁判所に求めることができます。
地主としては、勝手に更新を拒んでトラブルを招くより、きちんと裁判所に判断してもらうことで、リスクを回避できるのです。
■ ケース③:借地人との金銭交渉が進まない場合
地代の値上げや更新料の請求について、借地人が頑なに拒んで話し合いが進まない…。
地主がそんな状況に陥ったときも、借地非訟手続が役立ちます。
地主は以下を申し立てることが可能です。
・地代の改定(増額・減額)に関する判断
・更新料の額の決定
・承諾料の相当額の確認
たとえば、近隣の地価が上がっているのに地代が据え置かれている場合などは、地主から「増額請求」を非訟手続で申し立てることができます。
これは、交渉がこじれても、地主が泣き寝入りせずに“適正な金額”を得る手段として有効です。
第3部:借地非訟手続の進め方と地主が気をつけるポイント
■ 実際の申立て手続きの流れ
地主が借地非訟手続を活用するには、以下の手順で進めます。
1.管轄の家庭裁判所に申立書を提出
2.裁判所から期日通知・資料提出の要請
3.書面審理または期日審理(双方の主張)
4.調査官や鑑定人による実地調査が入ることも
裁判所の決定(許可・不許可・条件付き等)
手続きには弁護士を代理人として依頼することが一般的ですが、自身で申立てることも可能です。
ただし専門的な法律判断が絡むため、地主としては最初から弁護士に相談しておくことをおすすめします。
■ 地主が注意すべき3つのポイント
“勝てる”手続きではないことを理解する
→ あくまで「客観的な調整」が目的。自分に有利な結論になるとは限らない。
証拠や資料の整備が重要
→ 契約書、地代の履歴、近隣地価、建て替えの図面など、客観資料を揃えること。
感情的な対立を避ける
→ 借地人との関係が悪化することで、手続きが長引き、逆に地主側が不利になることもある。
地主としては、「法的に自分の立場を守るための冷静な手段」として、非訟手続を捉えることが重要です。
借地契約に関する問題は、表面上は静かでも、実は長期にわたり複雑に絡み合っています。
特に地主にとっては、「一歩踏み間違えると裁判」「なにもしないと損」といった板挟みの状況になりがちです。
そんな中で、借地非訟手続は地主にとって次のような“武器”になります。
✅ 契約交渉が行き詰まったときの救済手段
✅ 金銭トラブルを“公平な視点”で整理できる
✅ 地主としての判断に“法的なお墨付き”を得られる
✅ 将来的なトラブル回避に役立つ予防的手段
地主がこの制度を知らずに、借地人の言いなりになる必要はありません。
かといって強引な対応は、裁判で不利になるリスクもあります。
だからこそ、「借地非訟手続」という公正な仕組みを理解し、適切に活用することが、地主としての資産を守る最善策の一つなのです。