貸家建付地の評価|アパートを建てると土地の税金まで下がる「権利のカラクリ」
地主さんの相続対策において、最も有名で、かつ多くの人が実践しているのが「アパート・マンション経営」です。
もちろん、家賃収入を得るという事業的な側面もありますが、地主さんにとっての真の狙いは「土地評価の圧縮」にあります。
更地(さらち)のまま持っていると、その土地は100%の価値で課税されます。しかし、そこにアパートを建てて他人に貸した瞬間、その土地の評価額は魔法のように2割近くダウンします。
「自分の土地に、自分で建物を建てただけなのに、なぜ評価が下がるのか?」
そこには、日本の法律が守っている「借りる側の強い権利」が深く関わっています。
【第1部】「自由に使えない土地」は価値が低いという税務の論理
なぜアパートを建てると土地の評価が下がるのか。その答えは、「地主さんがその土地を自由に使えなくなるから」です。
更地であれば、明日から自分で家を建てようが、駐車場にしようが、売却しようが自由自在です。しかし、アパートを建てて入居者が入ると、そこには「借家権(しゃっかけん)」が発生します。日本の借地借家法では入居者の権利が非常に強く守られているため、地主さんが「今日からここは自分の家にするから出ていってくれ」と言っても、正当な理由と多額の立ち退き料がなければ立ち退いてもらうことはできません。
このように、他人の権利(借家権)によって利用が制限されている土地のことを「貸家建付地(かしやたてつけち)」と呼びます。
税務署も「入居者がいる以上、この土地は更地ほどの価値はないよね」と認めざるを得ないため、その制限されている分だけ評価額を割り引いてくれるのです。つまり、不自由さと引き換えに節税を手に入れているということになります。
【第2部】評価額を算出する「魔法の数式」と減額の目安
貸家建付地の評価額は、適当に決まるわけではありません。
国税庁が定めた明確な数式によって算出されます。
評価額 = 自用地(更地)評価額 × (1 - 借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
ここで重要なのが、各項目の数字です。
・借地権割合: 地域によって異なりますが、都市部では60%〜70%が一般的です。
・借家権割合: 全国一律で30%と決められています。
・賃貸割合: そのアパートがどれくらい埋まっているか(満室なら100%)です。
例えば、借地権割合が60%の地域で、満室のアパートを建てた場合、減額される割合は 60%×30%×100%=18%となります。
つまり、1億円の更地が8,200万円に評価ダウンするのです。
これに加えて、建物の評価自体も「固定資産税評価額」ベースになるため、現金1億円をそのまま持っているよりも、1億円でアパートを建てたほうが、資産全体の相続税評価額を半分以下にまで圧縮できることも珍しくありません。
【第3部】「空室」は節税の天敵!賃貸割合の落とし穴
この素晴らしい節税メリットを享受するために、地主さんが絶対に避けなければならないのが「空室」です。
前述の数式にある「賃貸割合」が、ここで重い意味を持ちます。もし相続が発生した瞬間に、アパートの半分が空室(賃貸割合50%)だったとしたらどうなるでしょうか。減額される割合も半分になってしまい、本来受けられるはずだった評価減が半分消えてしまうのです。
さらに厳しいのは、「一時的な空室」と認められない場合です。
相続の前からずっと空室だったり、入居者を募集していなかったりする部屋は、税務調査で「そこは貸家建付地ではなく、自用地(更地と同じ)だ」と指摘されるリスクがあります。
節税のためにアパートを建てるのであれば、ただ建てるだけでなく、「常に満室経営を維持し、誰かに貸し出し続けていること」が、税制上の恩恵を100%受けるための絶対条件となります。
「建てて終わり」の対策が、いかに危険であるかがお分かりいただけるでしょう。
アパート経営による土地評価の引き下げは、地主さんにとって非常に強力な武器になります。
しかし、その本質は「他人に権利を一部渡すことで、自分の税金を下げる」という等価交換です。
節税額の大きさだけに目を奪われず、入居者が途切れない立地なのか、将来にわたって賃貸経営が成り立つのかという「事業性」を冷静に見極める必要があります。
「税金は安くなったけれど、空室だらけで借金だけが残った」という悲劇を避けるために、まずは数式の中にある「借地権割合」をお手元の路線価図で確認することから始めてみませんか?