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借地借家法第28条の壁を突破せよ!2026年・建て替えに伴う「正当事由」の立証と立退料の算定実務

築40年、50年を超えた木造アパートや旧耐震基準の賃貸マンション。
外壁のクラックから雨水が浸入し、配管は錆びつき、度重なる修繕を施しても維持が限界に達している。

「これ以上の修繕は資金の無駄だ。全室を退去してもらい、建物を解体して最新のマンションへ建て替えたい」

「あるいは更地にして、有効活用するか売却して一族の資産を整理したい」

地主様がそう決断した時、目の前に立ちはだかるのが、日本の賃貸借法制における最強の防壁「借地借家法」です。

長年貸してあげていたのだから「古くなったので半年後に出ていってほしい」と告げれば済むと考えているなら、それは致命的な誤解です。入居者が「引越し先がない」「ここを出ていく気はない」と一度突っぱねてしまえば、貸主の一方的な都合で退去させることは法律上不可能です。

借地借家法第28条が定める「正当事由」の構造を解き明かし、裁判所をも納得させるエビデンスの構築と適正な立退料の算定基準を解説いたします。

【第1部】借主を過剰に守る「借地借家法第28条」と正当事由の力学

普通借家契約において、期間満了による更新拒絶や中途解約の申入れを行う際、貸主側には厳格な「正当事由(解約を正当化する相応の理由)」が要求されます。

裁判所は、以下の要素を総合的に勘案して正当事由の有無を判定します。

1. 建物の使用を必要とする事情(主たる要素)

貸主が建物を自ら使う必要性と、入居者が現在その建物に住み続ける必要性を天秤にかけます。単に「建て替えて収益を増やしたい」「更地で売りたい」という貸主の経済的利益は、入居者の「住居を失う生活の危機(居住権)」よりも著しく低く評価されます。

2. 賃貸借に関する従前の経過

これまでの家賃支払いの状況、契約締結の経緯、これまでの賃貸借期間の長さなどが考慮されます。

3. 建物の利用状況および現況

建物の老朽化度合い、耐震性能の不足、空室率の推移などが厳密に審査されます。

4. 財産上の給付(立退料)の申出(補完的要素)

ここが極めて重要です。「立退料さえ払えば無条件に出て行ってもらえる」わけではありません。
立退料は、上記1〜3の要素によって生じる「貸主側の正当事由の不足分を補うための調整弁(補完要素)」に過ぎないというのが確立された判例の立場です。

【第2部】裁判官を納得させる「耐震不足・老朽化」の定量的エビデンス

正当事由を成立させるための最大の武器は、主観的な「古いから危ない」という言葉ではなく、第三者機関による「客観的・数値化された劣化証明」です。

・木造アパートにおける「耐震診断結果報告書」

建築士による耐震診断を実施し、「上部構造評点が0.7未満(倒壊する可能性が高い)」という判定書を取得します。巨大地震が切迫する2026年現在、公的基準で倒壊危険性が証明された建物に人を住まわせ続けることは、入居者自身の生命を脅かす行為であるため、貸主側の「建て替えの正当性」を大幅に補強する材料となります。

・修繕費用の「経済的合理性の喪失」の立証

建物を維持するために必要な大規模修繕の見積額が、建物の現在価値を大きく上回り、かつ建て替え費用に匹敵・超過することを工事業者の見積書で証明します。「経済的に直して使い続けることが著しく不合理である」という論理を構築します。

・空室化の自然進展

10戸中10戸が埋まっている状態から一斉に立ち退かせるのは極めて困難です。退去が出た部屋は新規募集を行わず空室のまま止め、全10戸のうち「残り1〜2戸」まで自然減させた段階で交渉を開始することで、貸主が被っている空室損失の重大性を裁判官に印象付けることができます。

【第3部】立退料の算定基準と内訳マトリクス

正当事由の不足を補い、円満な明渡しを成立させるために提示する「立退料」は、どのような費目で構成されているのか。実務上の算定ロジックを整理します。

◆ 居住用賃貸物件における立退料の算定構成要素と目安

① 移転実費(直接費用)
・引越し業者の基本運賃
・作業料・新居の初期費用(仲介手数料、前家賃、火災保険料、鍵交換代、保証会社初回料)
⇒ 約30万〜50万円(実費精算または定額支給)

② 賃料差額補償
・現アパートの家賃と、近隣で同等水準の新居へ転居した場合に生じる「家賃の差額分」の補填
⇒(新家賃 − 旧家賃)× 12ヶ月〜24ヶ月分(例:差額1.5万円×24ヶ月=36万円)

③ 原状回復費用の免除
・借主が本来負担すべき退去時の原状回復費用を全額免除する特約
⇒ 敷金の全額返還 + 原状回復費用の全額請求放棄

④ 迷惑料・転居協力金
・引越しに伴う諸手続き、環境変化に対する心理的負担への補償
⇒ 賃料の数ヶ月分程度(約10万〜20万円)

★立退料の総額目安
・上記①〜④を合算した実務的な提示ベース
⇒ 賃料の6ヶ月〜10ヶ月分相当(家賃5万円の部屋なら50万〜80万円程度)

※店舗や事務所など「事業用テナント」の立ち退きの場合は、上記に加えて「移転に伴う営業休止期間中の休業損害補償(粗利益の補填)」や「内装造作の残存簿価・移設費用」が加算されるため、立退料は数百万〜数千万円単位へと跳ね上がります。
老朽化アパートの立ち退きは、地主様の人生において何度も経験するものではありません。だからこそ、最初のボタンの掛け違えが数年にわたる泥沼の係争を引き起こします。

・借地借家法第28条の制約を理解し、入居者への一方的な解約通告を厳に慎む。

・第三者の耐震診断書と修繕見積書を取り揃え、建て替えの「客観的必要性」を確立する。

・移転実費と賃料差額を論理的に積み上げ、適正な「立退料のパッケージ」を設計する。

立ち退き交渉の成否を分けるのは、強硬な態度でも高額な金のばらまきでもありません。

「安全上、どうしても住み続けていただくわけにはいかない」という揺るぎない客観的エビデンスと、「転居先の生活を誠心誠意支援する」という手厚い実務設計。この両輪が揃って初めて、頑なな入居者の心を開き、円満な立ち退き合意へと導くことができるのです。
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