認知症で土地が凍結する?「後見」と「信託」で資産を守り抜く方法
「うちは長男に継がせるつもりだから、急がなくても大丈夫」
もし、あなたがそう思っているなら、一つだけ残酷な質問をさせてください。
「もし明日、あなたが認知症になったら、その土地はどうなりますか?」
相続対策、アパートの建て替え、土地の売却……。これらはすべて、あなたの「明確な意思」があって初めて成立します。意思能力がないと判断されれば、銀行口座は凍結され、不動産の売買契約も結べません。たとえ家族であっても、あなたの代わりに印鑑をつくことはできないのです。
今、地主の間で「相続」と同じくらい、あるいはそれ以上に重要視されている「認知症による資産凍結」への備えについて、2つの公的な解決策を比較・解説します。
【第1部】「成年後見制度」の限界|地主の味方にはなりにくい?
認知症になった後の公的なサポートとして「成年後見制度(せいねんこうけんせいど)」があります。しかし、地主さんにとって、この制度は必ずしも使い勝手の良いものではありません。
なぜなら、後見制度の目的は「本人の財産を守ること」だからです。
◆積極的な運用ができない
「相続税対策のためにアパートを建てる」「節税のために生前贈与をする」といった行為は、本人の財産を減らす(リスクにさらす)行為とみなされ、家庭裁判所や後見人が許可しないケースがほとんどです。
◆専門家への報酬
弁護士や司法書士が後見人に選ばれた場合、毎月数万円の報酬が一生涯、本人の財産から支払われ続けます。
後見制度は「現状維持」には向いていますが、地主として資産を次世代に繋ぐための「攻めの対策」は、制度を利用した瞬間にすべてストップしてしまうのです。
【第2部】地主の切り札「家族信託」|元気なうちに管理権をバトンタッチ
そこで今、地主さんの間で主流となっているのが「家族信託(かぞくしんたく)」です。
これは、信頼できる家族(主に子供)と契約を結び、「財産の管理権」だけを元気なうちに渡しておく**仕組みです。
◆認知症になっても止まらない
管理権はすでに子供に移っているため、親が認知症になっても、子供の判断でアパートの大規模修繕をしたり、土地を売却して介護費用に充てたりすることが可能です。
◆利益は親のもの
「管理権」は子供に渡りますが、家賃収入などの「利益(信託受益権)」は引き続き親が受け取ります。生活スタイルを変えることなく、管理の負担とリスクだけを減らせます。
◆遺言代わりになる
親が亡くなった後、その信託していた土地を誰が受け取るかまで決めておけるため、遺言書と同じ効果を持たせることもできます。
【第3部】2026年の鉄則:意思表示ができる「今」がリミット
家族信託の最大のポイントは、「認知症になってからでは契約できない」という点です。
「最近、少し物忘れが増えたかな?」と感じた時には、すでに法的な契約を結ぶ能力がないと判断されるリスクがあります。
2026年現在、家族信託は地主の標準装備になりつつありますが、同時に「もっと早くやっておけばよかった」という後悔の声も絶えません。
土地を守るということは、単に登記を残すことではありません。自分の意思が反映されなくなった後も、家族が困らないような「仕組み」を完成させておくことです。
「自分はまだ大丈夫」という過信を捨て、意思能力という「無形の資産」があるうちに、印鑑を押しておく勇気が求められています。
認知症による資産凍結は、ある日突然やってくる「サイレント・リスク」です。
成年後見制度でガチガチに守られる前に、家族信託という柔軟な翼を広げておく。これが、令和の地主が家族に遺せる最高の安心材料になります。
まずは、お正親御さんやご自身が「もし判断力が衰えたら、この土地をどう動かしてほしいか」を家族会議のテーマにしてみてください。
「家族の絆」を「法的な仕組み」に昇華させること。それが、地主家系が何代にもわたって繁栄を続けるための秘訣です。